「約束」後編










「大佐。×日の夜ってあいてます?」
「?あいていたと思うが?」
キョトンとした顔で返事をくれた大佐に薄く微笑む。すると少しだけ困ったような、恥ずかしいような表情を浮かべる大佐に俺はずいぶん前から気付いていた。
「なら、食事いきません?」
その日は俺の20回目の誕生日だ。
「…ああ。いいよ。」
あなたは、俺に気付いてくれているのでしょう?ならば〝約束〟を覚えていてくれてますか?


少し曖昧な幼き日々の記憶に、それでも鮮明に残る日々がある。残る言葉がある。残る人がいる。
彼の帰りを待ちわびていた俺の手を引くのは母。困ったように笑うのは父。
どうしてと泣き叫んだのを覚えている。
それは、引っ越しの時の記憶。何も彼の長期不在中にしなくても良かったではないかと今更ながらに思う。
ずっとずっと、毎日毎日思い出していた訳ではない。言い換えれば、ここに来るまでは忘れさせていたのだ。
でも、目の前に彼を見てしまえば記憶は簡単に溢れ出し、俺を幼き愛しい日々につれ戻した。





一日一日とその日が近づいてくる。
×日。
それがハボックの誕生日であることをロイも気付いていた。しかし、お互いにお互いが気付いているのかを図ることは出来なくて。

窓の外をそっと見つめる。そこには金色の髪をキラキラと太陽に輝かせたハボックがいた。
いつしか膨れ上がった幼い頃の約束がロイを雁字搦めにしていく。いつでもその手を伸ばせば届く距離にあるのに、言葉1つ届けることすら出来ない。
最初は幼き彼と今の彼に違いがあると思っていたロイだったが、今ではその境界線も曖昧で、愛しくて堪らない。
『お兄ちゃん』と繰り返された声が『大佐』と今は紡ぐ。
その声にロイは間違いなく欲情するのだった。





「大佐。今日は付き合って下さってありがとうございます。」
ニコニコとハボックがロイの目の前で笑う。今日はハボックの二十歳の誕生日だ。
「ああ・・ハボック少尉・・・。」
ロイは確実に言葉に困っていた。
実はここには決心を固めて来たロイである。〝約束〟をしたことは事実なのだ。だから、ちゃんと伝えようと。
しかし、ただ無邪気に笑うハボックにそんな邪な気持ちを栄えある二十歳の誕生日に打ち明けてもいいものだろうかと、その笑顔に迷ってしまう。今伝えなくてもいいのではないか?いや今伝えなくていつ伝えるというのだ?
「ねえ、大佐・・・。俺、今日誕生日なんすよ。」
一人ぐるぐると考えていたロイに、ハボックがポツリと零した。ロイは自分の心臓がかつてこんなにも早く脈打ったことがあったかと思うほどの心音を聞いた。
「し…っている。」
「なら…」
「ハボック少尉。二十歳の誕生日、おめでとう。君が産まれてきたことに感謝する。今ここで〝約束〟を叶えたい。」
たった一つの真実がロイを突き動かした。たった一つ。それは幼き日に交わした〝約束〟だった。





~~~・~~~・~~~


「お兄ちゃん!僕ね、ロイお兄ちゃんが大好き。」
幼い小さな両腕を目一杯広げて、その大きさを示そうとしてくれる。
「ありがとう。お兄ちゃんもジャンのことが大好きだよ。」
優しくその金色の頭を何度も撫でた。太陽に反射するキラキラ零れる光。その眩しさが愛しかった。
「本当?あねの、お母さんが言ってた。大好きな人とずっと一緒にいる為に結婚するんだって!」
無邪気な笑顔が告げる。
「お兄ちゃん耳かして?」
少し恥ずかし気に頬を染め、それでも嬉しさに負けてしまうのか笑顔いっぱいでロイの首を引き寄せるようにして耳元を確保すると、
「僕、20才になったらお兄ちゃんのお嫁さん?になる!!お嫁さんにしてくれる?」
内緒ごとのように甘い声が耳に流れ込んだ。
お嫁さんのたしかな意味も、結婚のたしかな意味も、きっと知らない幼き無垢な魂。
だけど、そんなことのたしかな意味など今は関係なかった。ただ、ロイは答えていた。
「うん。お嫁においで。ジャンが二十歳になったら結婚しようね。」
「お兄ちゃん、約束だよ!!僕をお嫁さんにしてね。」
「約束だ。君が二十歳になったら・・・。」


~~~・~~~・~~~





「大佐?眠れないんすか?」
裸の上半身を惜しげもなく晒し、一枚の紙を見つめていたロイの横から眠たげな声がかかった。
音もなくそちらを向いたロイがその唇にキスを落とす。
恥ずかし気にその唇を受け止めたハボックだったが、腹筋だけを使って起き上がり、ベットサイドに置かれていたシガレットケースから煙草を抜くと火を付けることなく咥えた。
こちらも裸のままだ。鍛え抜かれた身体はロイを護るために存在する。
「なんすか?それ。仕事?」
「いや…。いつものアンケートだ。」
ひらりと投げ捨てるようにロイが紙を手放す。それをなんなくハボックがキャッチした。
「ああ。またそんな時期なんすね。」
クスクス笑うハボック。いつかもこの紙を手に笑っていた。
今一度ハボックからその紙を奪うと、ベッドの下へと落とす。ついでに火がつけられることのなかった煙草もハボックの口から引っこ抜くと灰皿へと落とし、その体を抑え込むように今度は優しくない、だけど情熱的なキスを贈った。





※恋人はいますか? ・・・いる










     TEXT(COUNT)  FIN


後編をお届けしました。
こちらの小説は「みつき様」に頂いたリク小説になります。リク内容は、
「ロイとハボックは小さい頃近所に住んでいた幼馴染。ロイはハボックが可愛くて仕方なく、ハボックはロイお兄ちゃんが大好きで、ある日『オレ、二十歳になったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!お嫁さんにしてね』とハボックが言うのにロイも『ジャンが二十歳になったら結婚しようね』と約束する。でも、その後すぐハボックは急に引っ越してしまい音信不通に。
そのまま何年も経って、軍人になったロイのところに部下としてハボックが配属になってくる。
成長したハボックに改めて恋したロイ。勿論約束の事も思い出したけれど肝心なハボックの気持ちは全く判らない。ハボックが自分の事をどう思っているのかも約束を覚えているのかも判らないままハボックの二十歳の誕生日を迎えて、そして・・・。」
ハッピーエンドでロイ×ハボ
というものでした!!

もう、この粗筋だけでキュンキュンですよ!というか、私がこの小説を読みたくて身もだえました。
そして、自分の書いた小説…ホント申し訳ない><
力量不足も甚だしい感じが否めません。超お待たせしたのに…( ;∀;)
でも、必死で書きました。全力は注いだつもりなんです。←もとがしょぼいから
頭の中一杯にハボックとロイを並べて書きました。
みつき様、キリ番報告にリクエスト、本当にありがとうございました。
遅くなってしまい、本当に申し訳なかったですm(__)m
これに懲りず、今後ともお付き合いくださると嬉しいです!

こちらの小説はリクエストして頂いた、みつき様のみお持ち帰り自由となっています。
(2014/04/21)






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